資金調達 東京の人気の秘密とは!?
K泉元首相は、郵貯を介して不透明なカネが官僚組織や彼らのOBたちがつくった組織に流れることを問題視していたが、それも郵貯の運用先を国債に限定すれば回避できる。
上述の理由から私は、郵貯銀の固有民営までは経営効率の向上という観点から賛成だが、民有民営化には同行のべらぼうな規模を考えれば事前に多くの制限を設けない限り反対である。
今回の新銀行東京の損失は1000億円程度で済んだが、同じ間違いを郵貯銀が犯したら、その規模は新銀行東京の10倍から10O倍にもなりかねない。
その意味でも、今回の新銀行東京の経験が郵貯銀にしっかり活かされるよう、関係者の努力が期待されるところである。
それにしても新銀行東京は、社会科学では滅多にできない実験を見事に実施してくれた。
つまり、この十数年間、日本ではバランスシート問題で民間資金需要が激減したことが不況の主因であるというバランスシート不況の考え方に対し、民間資金需要はあるのに、金融機関が不良債権を抱えてお金を回せなくなったから経済が悪化し、しかも従来の銀行員は信用力をチェックする能力がなく、担保を取ることしか知らないからお金が回らなくなったのだという意見があった。
この後者の考え方は、民間資金需要は常にあるという前提で経済学を構築してきた学者たちにとくに多かった。
資金需要がなくなってお金が回らなくなったのか、それとも、資金供給が滞ってお金が回らなくなったのかというこつの主張はどちらも一理あり、どちらもそれなりの事例があり、問題はどちらが不況の主因であるかであった。
もちろん私を含む実際に金融に身を置いている者の大半は、前者(資金需要の減少)が主因であり、資金供給の滞りは一時的、また局地的な要因だとしてきた。
それは後者が主因であれば、銀行の貸出金利は1991〜93年の米国のように急騰しているはずであり、また不良債権問題を抱えていない外銀の国内シェアは拡大し、上場企業にとって銀行借り入れの代替物である社債市場からの資金調達は増えているはずだからだ。
実際の銀行貸出金利は20O5年まで史上最低を更新する一方で、外銀のシェアも社債市場での資金調達も減少する一方であった。
しかも、日本では日銀が「企業から見た金融機関の貸出態度」を短観の調査で調べてきたが、その結論は第一章の図5(78頁)で示したとおり、2回の限られた時期を除いて銀行の貸出態度はずっと積極的だった。
またこの事実は、銀行の貸出金利の低下、外銀のシェアや社債市場における資金調達の減少とも整合性がとれている。
にもかかわらず、日本の不況が後者の資金供給側の問題で引き起こされたということを証明するために実際につくられたのが新銀行東京だった。
今回の不況の主因は、経済学がこれまでまったく想定してこなかった民間資金需要の減少によるものであり、このような不況では、新たに銀行をつくって資金供給を増やそうとしてもまったく意味がないという事実である。
このマネー・サプライは民間が自由に使えるお金であり、増えれば民聞が使えるお金が増えたということで景気にプラスになると考えられる。
だからこそ景気が良くない時は、政府も経済学者も日銀はマネー・サプライを増やすべきだと言い出すのである。
バランスシート不況下では、企業がお金を借りるどころか、銀行にお金を返すようになる。
そうなったら、上述のプマネー・サプライロセスは逆に動き出し、はどんどん減っていく。
通常の借金返済は銀行の預金を取り崩して行うため、みんなが借金返済に回り、借り手がいなくなると銀行の預金残高はどんどん減少してしまうのである。
前述の「金融政策が効くには資金の借り手がいなければならない」というのは、まさにこのことなのである。
実際に、大恐慌時のアメリカではマネー・サプライが33%も減っている。
それはまさにこの逆回転のプロセスが起きたからである。
企業は多い時は年間3O兆円も借金を返済していたのに、日本のマネー・サプライは年率一%から2%程度だが増えていたのである。
これは、考えてみればとても不思議な話であった。
あれだけ民聞が借金返済をやっていたのに、なぜマネー・サプライは減らなかったのか。
日本でマネー・サプライが減らなかったからくりを示したのが図却である。
これを見ると、98年ごろから民間は借金返済をやっていたのに、政府がお金を借りて使ったからマネ結局のところ、政府が民間の借金返済額より余計にお金を借りた分だけマネー・サプライは伸びたのである。
今の日本は政府債務がすさまじい規模にまで膨れ上がっているにもかかわらず、ほぼゼロ金利・ゼロインフレの状態が続いている。
今の日本の政府債務はGDP比で見て、16O%を超えており、現時点では世界最大である。
過去の例を見ると、財政赤字がGDP比で百数十%もある国はとんでもないインフレか、とんでもない高金利になるのが通例である。
なぜかと言えば、あまりにも財政赤字が巨大になると、それに我慢できなくなった政府が中央銀行に圧力をかけるからである。
はっきり言えば、「紙幣を刷ってそれで国債を買ってくれ」と迫るのである。
当初は、中央銀行も政府の要請を拒否する。
そのようなことに同意してしまったら、とんでもないインフレになるからだ。
あまりにも財政赤字が大きくなると、最終的には中央銀行も拒否できなくなってしまう。
中央銀行がそんな行動をとると、紙幣が大量に印刷されることになるから、そこからとんでもないハイパー・インフレになるか、あるいは極端な金利上昇が起こる。
過去にハイパー・インフレになった固のケースを見ると、だいたい中央銀行が政府の圧力を受け止めきれずに、政府の言いなりになったのが原因である。
その意味でも日本は大変な例外と言うべきであろう。
日本と同じく巨大な財政赤字に悩まされていた十数年前のイタリアの金利は一時、十数%もあった。
それなのに日本は、高金利にもならずハイパー・インフレにもならずに済んでいる。
両方の悪夢を回避できたのはなぜかと言えば、この間ずっと、日銀が政府の圧力を援ねつけ、国民の信頼に値する行動を採ってきたからである。
実際に、日銀に対しては国内の政治家や内外の学界からすさまじいプレッシャーが何度もかかってきた。
先述したクルーグマン教授やその周辺の人たちは、「日銀が輪転機を回せばいいのだ。
日銀は「インフレを放置する無責任な中央銀行になる」と宣言すべきである」とまで言ったのである。
実際にクルーグマン教授はいくつかの論文にそうした主張を記しているし、先述した私との対談のなかでも、「日本は20O%から3OO%のインフレにすればいい」と、強硬に主張していた。
バーナンキ現FRB議長も当時は日銀をパカ呼ばわりしており、「日銀の審議員のなかで耳を傾けるのに値するのはたった一人だけで、他はひどいものだ」とか「日銀はトマトケチャップでも買えば景気は良くなる」と述べていたのである(90年代の日銀と同じ状況に直面している彼が今でも同じ意見を持っているとは思えないが)。
日本の政府からも例えばT中平蔵氏や大阪大学の本間正明教授(元政府税調会長)などを通じて「これから政府は財政再建をやるので、日銀はそれに見合った金融緩和をしてほしい」という要請がたびたびあった。
まさにクルーグマン教授たちの言いなりになっていたわけである。
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